品川を夜9時頃に出た列車が、上越線を通り、日本海沿いを北へ走る。翌朝9時半頃、青森に着く——2027年春、そんな夜行列車が走り出します。
JR東日本が6月に名前と概要を発表した、全席個室の新型特急「ルナ・アズール」。実はこのルート、12年前まで走っていた寝台特急「あけぼの」の道と、ほぼ重なります。この記事では、日本の夜行列車史のなかで、この列車をどう読むかを考えてみます。

「ルナ・アズール」はどんな列車か
「ルナ・アズール(Luna Azul)」は、常磐線特急「ひたち」「ときわ」で使われているE657系を、全席個室に改造して誕生する列車です。「ひたち」「ときわ」も品川駅を発着駅としており、同じ車両、同じ駅から、まったく別の顔をした列車が生まれることになります。春から秋は品川〜青森間の夜行として週2往復、冬は品川〜長野原草津口間の昼行として週6往復。同じ車両が季節で顔を変えます。
夜行の下りは、品川を21時頃に出発し、翌朝9時半頃に青森に到着する予定。編成は10両・定員125名。個室はプレミアムグリーンからグリーン個室まで5種類あり、5号車には共用ラウンジ「ルナ・ヴィスタ」が置かれます。個室にこもるだけでなく、軽食を片手にくつろぐ時間も用意されているというコンセプトです。

販売はえきねっとや駅の窓口ではなく、旅行会社を通じた旅行商品として。週の座席供給数は上下合わせて500席ほどにとどまります。運行開始は2027年春。ここまでが、現時点でJR東日本から発表されている概要です。

2010年代、夜行列車たちは次々と姿を消した
ここから、時計を少し戻します。
2009年3月、九州へ向かうブルートレイン「はやぶさ」「富士」が引退しました。かつて東京駅と九州各地を結んでいた寝台特急の系譜が、この時点でほぼ途絶えます。
2012年3月、大阪と青森を結んでいた「日本海」が定期運行を終了。そして2014年3月には、上野と青森を結んでいた「あけぼの」が定期最終列車を出します。上越線を通って群馬・新潟へ入り、日本海沿いを北へ向かうこの道は、夜行列車の路線としてはここで閉じました。
翌2015年3月、追い打ちをかけるように2本が消えます。上野と札幌を結んだ「北斗星」(27年余り走り続けていました)と、大阪と札幌を結んだ「トワイライトエクスプレス」の定期運行が、同じ月に終了。2016年3月には「カシオペア」の上野〜札幌間の運行も終わりました。カシオペアはその後、団体専用列車「カシオペア紀行」として細々と走っていましたが、2025年6月30日の運転を最後に、これも完全に姿を消しています。1999年のデビューから、約26年でした。
10年余りのあいだに、日本の主要な夜行列車はほぼ消えました。ルナ・アズールが発表されたのは、カシオペアが完全引退してから1年足らずのことです。
もう一本、忘れてはならない列車があります。2020年3月、東京〜大垣間の夜行快速「ムーンライトながら」も、事実上の最後の運行を終えました。青春18きっぷで乗れる夜行として、旅する若者に長く親しまれてきた列車です。
それでも夜行は途絶えなかった
ただし、日本の夜行列車が完全に絶滅したわけではありません。
「サンライズ瀬戸・出雲」は、1998年7月に運行を開始してから、28年目に入っています。東京から高松・出雲市を目指すこの夜行電車は、寝台個室を備えた列車として、今も定期的に走り続けています。
そして2020年9月、JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」が運行を開始しました。京都と山陰・山陽・紀南方面を、季節や便によって昼行・夜行の両方で結ぶ列車で、旅行商品として販売されるという点でルナ・アズールと形式が似ています。
定期の夜行が細ってきた一方で、単発の夜行イベントも生まれ続けています。2026年8月8日には、JR東海が東海道新幹線を使った夜行新幹線「東海道ルミエールエクスプレス」を、東京〜新大阪間で一夜限り運行。翌8月9日には、消えたはずの夜行快速「ムーンライトながら」が、三島〜大垣間で部分復刻運転される予定です(いずれも旅行商品限定)。同じ夏に、東海道の新幹線と在来線で、それぞれ一夜限りの夜行が動く——日本の夜行への関心は、静かに続いています。
「サンライズ」という定期夜行、「銀河」という旅行商品型の夜行、そして時折よみがえる夜行イベント。日本の夜行の系譜は、細い糸で繋がってきました。この糸に、2027年春、ルナ・アズールという新しい糸が加わろうとしています。
ルナ・アズールが走る「あけぼのの道」
ここで冒頭の話に戻ります。

ルナ・アズールの運行区間は、プレスリリースに「品川駅〜青森駅(上越線・羽越本線経由)」と明記されています。品川から高崎方面へ北上し、上越線で群馬・新潟へ入り、日本海沿いを羽越本線で北へ。秋田を経て青森へと向かう道です。
このルート、複数の鉄道メディアも指摘しているとおり、2014年に定期運行を終了した寝台特急「あけぼの」の晩年のルートと、ほぼ重なります。「あけぼの」が去って12年、同じ道を、まったく新しい姿の列車が走り出す——そういう構図です。
とはいえ、これは「あけぼのの復活」ではありません。ブルートレインが引いていた青い客車ではなく、電車特急E657系の改造。座席の並ぶ寝台ではなく、全席グリーン個室。窓口では買えず、旅行商品として売られる。運賃水準も、JR東日本の説明によれば「品川〜青森をグリーン個室で利用した場合、東北新幹線のグリーン車+α程度」を想定しており、決して庶民の日常的な移動手段ではありません。
系譜としても、どこに位置づけるかは一筋縄ではいきません。全席個室・高単価という点ではカシオペアの後継のようにも見えるし、旅行商品限定販売という点ではWEST EXPRESS 銀河に近い。豪華な体験を売るという点では、ななつ星in九州や四季島などのクルーズトレインの縮小版のようにも読めます。
答えは、たぶん、まだ出ていません。この列車が日本の夜行列車史のなかで何になるかは、実際に走り出してみないと決まらない気がします。あなたは、この列車をどう読みますか。
2027年春、品川のホームで

2027年春、品川駅のホームで、ドアの向こうに個室が並ぶ列車が入線してくる。乗客はそれぞれ自分の部屋の鍵を閉め、日本海側の夜へ向かって出発する——そんな光景まで、あと約9か月です。
12年間、夜には静かだった上越線・羽越本線が、また少し賑やかになります。あけぼのを覚えている人にも、初めて夜行列車に触れる人にも、2027年春は、少し特別な季節になるかもしれません。
※本記事は2026年7月2日時点の情報をもとにしています。運行日程・料金・仕様・販売方法は、今後の正式発表や事情により変わる場合があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
※本文中に登場する過去の列車の運行日程については、各鉄道会社の公式発表および鉄道専門メディアの記録に基づきますが、多客期の臨時運行など細部には資料により若干の揺れがあります。
【参考・参照サイト】※最終アクセスはすべて2026年7月2日
- 東日本旅客鉄道株式会社「夜行運転に対応する特急列車により新たな乗車体験を提案します(新たな特急列車「ルナ・アズール」が2027年度初に運行開始)」2026年6月9日
- 夜行運転に対応する特急列車により新たな乗車体験を提案します | 東日本旅客鉄道株式会社のプレスリリース
- 東日本旅客鉄道株式会社「寝台特急カシオペア」記録ページ
- 西日本旅客鉄道株式会社「寝台特急「トワイライトエクスプレス」の運転終了について」2014年5月
- 鉄道ファン・railf.jp「JR東海,東海道新幹線で当日出発・翌朝到着の特別列車『東海道ルミエールエクスプレス』を運行」2026年6月22日
- 鉄道ファン・railf.jp「8月9日出発 JR東海,『ムーンライトながら部分復刻 373系で行く「おおがき市場夏まつり」ツアー』を発売」2026年6月30日
- 東日本旅客鉄道株式会社「特急ひたち・ときわ」